俳優 緒方拳さんを偲んで
風 葬
大原野にぽつんと
骨・骨・骨の棲む処あり
やがてまもなく土になる
新しい男は瑞雪に覆はれ
モンゴルの凍った風が吹き荒ぶ中
素裸で髪だけ靡かせて
午睡する
其処の地をシャルエンゲル
黄色い斜面と呼んだ
太古からの習わしの野葬
生ある者が詣でることは決してない
行く時は土に還る時
大原野に骨・骨・骨の棲む処あり
これは、先ごろ亡くなられた緒方拳さん作の「風葬」である。「土に生まれ、土に還る」は社会派俳優らしい彼の死生観を見事に表わしている。
私は数多くある彼の作品のほとんどを見てきたが、「楢山節考」が一番印象に残っている。口べらしのため、年老いた母を背負って姥捨て山に捨てに行く貧しい農家の息子。母を屍転ぶ死に場に置き去りにして、去っていく背中は悲しみで震えていた。
「破獄」では、何度となく脱獄を繰り返す囚人を見事に演じていた。食事に出された味噌汁を鉄格子に吹きつけ、鉄格子を腐食させている因人の恐るべき執念には驚かされた。また、「鬼畜」ではわが子を殺める非情な父を演じ、「復讐するには我にあり」では、復讐鬼と化した男を演じていた数少ない個性派俳優だった。
緒方さんは生前、もみじが好きだと言われていた。もみじは色がいろいろと変わり、まるで人の生き方そのものを表わしている。特に冬のもみじがいいと言う。すべての葉が落ち、枯れ木だけのもみじには限りない愛着を感じるとか。
「うまい役者」というより「いい役者」でありたいという彼の言葉にも、彼の人生観・役者観がうかがえる。死の10分前、自分の死を悟りきったかのように目をカッと開き、虚空をじっと見つめていたという。人の死はこうありたいものだ。