恐るべき二十歳、内村航平
ロンドンで行われていた世界体操選手権で、内村航平(20)選手が個人総合で日本人最年少優勝を果たした。それも2位に2.575点の大差をつけてのぶっちぎりの優勝だった。彼の優勝の弁は「出来には満足していないが、粘り強くやれたから好結果につながったと思う。努力が無駄にならなくてよかった」。
最終種目の鉄棒、彼はそれまで2位以下に大差をつけており、無難にこなせば金メダルは手中にできたのに最後まで攻め続け、コバチなどのE難度の離れ技にトライし、そのすべてを完璧なまでに決めた。着地は少し乱れたものの若者らしいすがすがしい勝ち方だった。
しかし、すべてが完璧なわけではなかった。平行棒は演技渋滞の大失敗で全体の12位。床運動も着地に失敗した。彼の美学は着地を決めることだと言う。しかしその着地に失敗しても、試合の一つの過程としてとらえ、自分のミスは残りの種目で帳消しにした。
彼は体操の経験のある両親のもと生まれ、「平成の時代を真っ直ぐに渡れるように」という願いを込めて、『航平』と命名された。
また、極端な野菜嫌いで、野菜を思わせる緑色も嫌いだとか。好きな食べ物は、バナナとチョコレート。体操選手でありながら、体育が大の苦手で、中・高校時代の成績は5段階評価で「3」だった。現在、日体大に在籍している彼は、球技などの実技の単位をとるのに悪戦苦闘しているという。今風の若者らしい。
こんな平凡な彼が優勝できたのは、得意種目の床運動と跳馬をとことん伸ばして、不得意種目を補ってきたことだ。彼は小さいころからトランポリンに親しんでおり、小学校高学年の時にはすでにひねり技を身につけていた。
彼の安定した着地は得意なトランポリンを通じて得たものだという。彼は「トランポリンから見る景色を楽しむ」と言うが、それが演技の時の飄々というか楽しんでいる感じを私たちにさせるのだろう。
好きなことを突きつめるまでとことんやれば道は見えてくる。彼がその範を示しているようだ。これは「得意科目をどんどん伸ばせ」という我々の指導に通じるものがある。
難しさと美しさを体操で追求する内村航平、恐るべき20歳である。でも彼は私たちの手の届かない天才ではない。凡人であるがゆえに感動し、凡人であるがゆえに親しみを感じるのだ。
彼がいる限り体操日本の夜明けは近い。わたしはそう確信する。
これを書いている時、吉報が入ってきた。同じ二十歳の井山裕太が、囲碁名人戦を制して史上最年少の名人になった。日本の若者もまだまだすてたものじゃない。