横峯さくら、奇蹟の逆転勝利
それはまさに「神懸り」だった。最終戦のLPGAツアーチャンピオンシップで、3日目を終わって首位とは5打差。父親の良郎さんでも「勝つ可能性は20%もなかった」と言わしめた。しかし最終日の後半ホールの猛チャージ。テレビを見ている私も鳥肌が立つような奇蹟が起こった。
14番パー4、テーショットをラフに入れ第二打も打ち切れずグリーンのラフへ。ピンまではおよそ20m。思いを込めて打ち放ったボールはピンにまっすぐ向かい、見事なチップインバーデイ。
続いて15番ホール。残り140ヤード、グリーン手前で止まると思われたボールは、運よく前に跳ねてピンへと向かいあわやカップインかと思わせるOKバーデイ。
それよりも凄かったのは、最終18番ホールの難しいパーパットのラインを読みきってボールをねじ込んだ気力。高麗グリーンは少しでも手をゆるめると極端に曲がってしまう。それも最終ホールでギャラリーも多く、優勝がかかった大切な一打だけに一番緊張する場面である。そこで強気に打った彼女は今までの「弱気の横峯さくら」ではなかった。
神経質な彼女は常々「私はプレッシャーに弱い」と公言しており、シーズン当初の賞金女王宣言も、諸見里選手に4.400万円もの大差をつけられた時点で撤回したほど。最終日の前夜までは「賞金女王になれないことを想定して、来年は頑張ろう。」そう思っていたと言う。しかし丹精を尽くした彼女の一年間が実った。
横峯さくらは8歳ゴルフを始め、父親からマンツーマンで徹底したスパルタ教育を受けた。彼女がプロテストに合格すると、父親の良郎さんは、私財をなげうってキャンピングカーを購入し、ツアーを転戦した。それこれ寝食をともにしながらゴルフに打ち込む『父子鷹(おやこだか)』であった。
良郎さんはレッスンプロではなかったが、独自の練習法により彼女の才能を開花させた。フォームを見ても、宮里藍のような華麗さはなく、どちらかと言えば型破りな豪快なフォームだ。
凄い練習を見た。ドライバーで打つ彼女の10mぐらい前には、釣竿くらいの細い竹が一本立てられていた。ドライバーから放たれた彼女の打球のほとんどが、その細い竹を直撃しているのだ。それも10球続けて竹に当てないと練習は終わらない。私たちから見れば、それはまさに神業である。このようなユニークな練習の積み重ねが今の彼女を生み出した。
アメリカツアーで活躍する宮里藍とは同学年で、よきライバルだった。プロ2年目から賞金ランクは、4位・3位・2位・3位.プロナンバーワンの証である賞金女王にはなかなかなれなかった。
賞金女王宣言したのは今年の春。だから出場権を得た海外の試合にも参加せず、日本ツアー1本に打ち込んできた。春先は絶好調で勝利を重ねていったが、夏から諸見里選手の猛烈な追い上げにあい、大差をつけられての最終戦。ここでの粘りと強運はいままで積み重ねてきた力、つまり実力の表われだと思う。
勝てない時には「ゴルフをやめたい」と思ったこともあると言うが、来年は更にレベルアップした横峯さくらが見られると確信している。表彰式での重圧から開放されたさわやかな笑顔が印象的だった。私はその彼女の中に、新しい野心と人間的成長を見た。
賞金女王おめでとう! さくらちゃん。
世界を目指せ! 横峯さくら。