おもてなしの心
「ありがとうございます」
テーブルの上の裏返しされた伝票には、心をこめた言葉が書かれていた。ここは私が最近行きつけになった「ほのぼの喫茶店」。
カップになみなみと注がれたホットコーヒー。白い皿には、トースト2枚、大きく盛られた野菜サラダに、デザートのパイナップルに白クリームも添えられている。これで380円とはかなりお得。この喫茶店の朝はいつも満員だ。それに、店員のあいさつがまたいい。「おはようございます」という飾りのない弾んだ言葉と笑顔は、何とも心地よい。これだけでも私にとってはごちそうだ。
まず、店に入ると「おはようございます」が店内に響き、注文を取りにくるウエートレスも「おはようございます」、注文を運んでくるウエイトレスが代わっても、「おはようございます」が自然に出てくる。
「今日のモーニングはトーストとサンドウイッチがあります。どちらにされますか?」
「トーストでお願いします」
「ありがとうございます」
この喫茶店、特定の店員がいいのでなく、店全体に明るいほのぼのとした雰囲気がかもし出されている。これがいい。私はここにくるとホーッとする。飲むコーヒーも食べるモーニイングも倍くらいおいしくい感じる。喫茶店の朝のセットメニューを『モーニングサービス』と言うが、これこそホンモノのモーニングサービスと言える。
店を出る時は、「ありがとうございました」はもちろんのこと、「お気をつけて」と言葉は続く。私は何か得をしたような気分になるから不思議だ。
先日、あるゴルフ場を訪れた。プレー前にコーヒーを飲もうと、同僚とレストランに行った時の事。ウエイターはじめスタッフから「おはようございます」というあいさつはなし。注文を受ける時もボサーと立っているだけ、注文の品を持ってくる時も「お待たせしました」などの言葉も無い。喫茶室を出る時も「いってらっしゃいませ」などの言葉もない。
客に接する時の態度・物腰・表情・言葉使いはある意味企業の生命線でもある。企業では、いの一番に身につけさせること、研修での必須項目でもある。それは、好印象は信用度の向上につながり、企業に経営メリットをもたらすものだからだ。
私はこんな応対や対応をするゴルフ場のスタッフを見たことがなかった。おもてなしの姿勢や心がまるでないのだ。私だったらこんなスタッフはすぐにやめさせる。そんな憤懣やるかたない気持ちでいざコースを回ると、この怒りが効いたのか、何とハーフでワンオーバー33という自己新記録をつくってしまった。
スコア喜んでいいのだろう。しかし、なんだ、あの接客のしかたは。サービス業は「人がすべて」だ。客に対してのサービスを売り物にするのがサービス業がサービス業である所以である。「二度と来るまい」「でも、このコースは俺にあっている」複雑な気分でそのゴルフ場を後にした。
数年前、青森のスキー場である有名なホテルに2泊したことがある。そう言えば、この時のフロントの応対もこのゴルフ場と同じだった。私はその時、「二度とこのホテルには来ない」と思ったが、このホテルは1年後に閉鎖された。
デール・カーネギーはその著書「人を動かす」の中で、笑顔とあいさつを
『元手はいらない。しかも、利益は莫大。与えても減らず、与えられたものは豊かになる。一瞬の間見せれば、その記憶は永久に続く。どんな金持ちでもこれなしでは暮らせない。どんな貧乏人もこれによって豊かになる。家庭に幸福を、商売に善意をもたらす。』と述べている。