地域密着型百貨店「ダイシン」
空前の消費不況。ほとんどの百貨店が売り上げを大幅に下げている中、繁盛を続ける百貨店がある。東京の大森にある「ダイシン百貨店」がそれだ。創業者は、長野県のりんご農家。「ダイシン」の由来は、“大きな信州”という意味があるという。
この「ダイシン」高度経済成長時には年350億円もの収益をあげていたが、バブル崩壊以後の消費不況、100円ショップ・大型激安店などの進出などにより、100億円の借入金を抱え込み創業者は店を手放すことになった。
これを引き継いだのが、設計事務所の西山敷さん。この店舗の設計を担当したことが縁で、経営建て直しを請われた。西山さんは、古い下町の百貨店「ダイシン」の根強い人気を背景に、『半径500m以内、シェア100%主義』をキャッチフレーズに掲げ地域密着型百貨店への脱皮を図った。
開業以来「品数の多さ」が「ダイシン」の売りであったが、ずさんな在庫管理が経営を圧迫した。在庫処分や店舗整理によって利益は隆盛期の3分の1に減ったが、数年で見事黒字経営に立て直した。
この西山さんの発想がとにかくすごい。年間たった4個しか売れないという化粧品の「うぐいすの粉(ふん)」さえも店に置いている。お客さんの顔が見えるものは、数がなくても仕入れる。この考えが商売のベースにある。衣装品も40〜60歳代をターゲットにした豊富な品揃え。しかも一種類の服を一点しか置かない。どれを買っても一点もの。これは、他の人が同じものを着ていて不愉快な思いをさせないための配慮。従って50社以上の問屋と取引している。
工夫はまだある。品出しを営業時間中にする。こうすればお客さんが直接店員に声かけしやすいと言うのだ。店員はみな商店街のような人間味あふれる接客を心がけている。一人暮らしのお年寄りのためにと、魚は切り身一枚でも売る。だからお客さんは毎日でも店に来る。今や「ダイシン」は地域の社交場になっている。バジャマで来れるような店・誰でも立ち寄れるような雰囲気、電気・ガス・水道のような地域のインフラ的存在でありたいと西山さんは語る。
大森は坂の多い地域柄、お年寄りが買ったものを持ち帰るのも大変。そこで、高齢者向け無料宅配を行っており、500円の日替わり弁当1個でも無料で宅配するという徹底したサービスぶり。
また、食堂は昭和の雰囲気を漂わせたレトロな感じ。ラーメンが350円・ナポリタン380円とにかく安い。何を頼んでもボリユームたっぷりの大盛り。学生食堂並みでまさに庶民の味方だ。1000円握りしめていけば食べきれない。
こんなことから地元の圧倒的な支持を受けている。地元の皆さんが「住んでよかった」と思っていただける商品やサービスを提供してゆき、小売業としてこの地に強い根を張ることだと熱く語る大森さんの経営する「ダイシン百貨店」は、同じ通りにあったイトウヨーカドーを撤退に追いやってしまったというから驚きだ。