タイガーマスクのクリスマスプレゼント
年の瀬も押し迫って、何かと気ぜわしい折、心温まるニュースを耳にした。クリスマスの日、群馬県前橋市の児童相談所の前に赤い紙でラッピングされたランドセル10箱が積み上げられていた。
ランドセルは赤・黒の各5個で、1個3万円もするブランド品で総額30万円にもなるという。これに「子供たちのために使って下さい」と添え書きされていた。
差出人は「伊達直人」これは、あの伝説のヒーロー「タイガーマスク」の主人公と同名である。孤児院出身の伊達直人は、プロレスラーとして活躍し、稼いだお金の一部を施設に寄付した。寄贈者はこれにちなんだのだろう。
伊達直人は動物園のトラの檻の前でケンカしたことをきっかけで、「トラの穴」にスカウトされる。「トラの穴」は悪役プロレスラー養成機関で、ここで彼は過酷なトレーニングに耐え、悪役レスラー「タイガーマスク」としでデビユーする。
プロレスラーになってからは、貧しい孤児院の子供たちを救おうと寄付をするようになった。「トラの穴」にはファイトマネーの半分収めるという掟があった。しかし、孤児院の窮状を見るにつけ、これを救おうと掟を破り、収入のほぼ全部を寄付するようになった。これを知った「トラの穴」はタイガーマスクを裏切り者とみなし、つぎつぎと刺客を送るようになったというストーリ展開である。
孤児院「ちびっこハウス」にプレゼントを持って訪れる伊達直人、それに群がるうれしそうな子供たち。このシーンが妙に印象に残っている。その伊達直人もこの純な子供たちに恥じないレスラーになりたいと、悪役から正統派レスラーへの転身をはかる。
伊達直人の最期は悲しいものだった。世界タイトルマッチ戦に向かおうとした彼は、車に引かれそうになった子供を救おうとし、自らが犠牲となって死んでしまう。伊達直人は最後の気力を振り絞ってタイガーマスクを川に捨てたため、彼がタイガーマスクだったということは永遠に封印された。しかし、孤児院「ちびっこハウス」の子供たちは知っていた。伊達直人がタイガーマスクだったことを。
これは梶原一騎さんの原作によるものだが、「あしたのジョー」「巨人の星」といい、極貧の淵からはいずりあがってくる主人公の生き様は多くの人の心をひきつけた。当時高校生であった私は学校から帰るとテレビにかじりついて見たものである。
平和ボケと言われる日本人。この時代にスポ根もの(スポーツ根性もの)は似合わないかもしれないが、渡辺淳一さんの言う「鈍感力」でこの難局を乗り越えなければならない。
ランドセルという粋なプレゼントをした足ながおじさんのサンタクロースに「ありがとう」のメリークリスマスを贈りたい。