学びを社会で生かす
『まごの店』三重県相可高校の食物調理科生徒が運営するレストランである。高校生が地域の食材をふんだんに使ったメニューを開発し、食材の仕入れから調理・接客・経理すべてを行う。営業日は週末と休み中だけだが、これを目当てに午前10時過ぎから多くの行列ができ、予定の200食は昼過ぎには完売するという。
早朝5時、生徒は食物調理科の村林新吾先生とともに魚市場に仕込みに行く。「日本料理で一番大切なのは仕込み。味の基礎になる仕込みをおろそかにしていては、おいしい料理はできない」というのが信条。そこで新鮮な魚の見極めを勉強するのだ。仕入れの後、営業日のメニューを生徒が決める。
教育においても、基礎=仕込みが何より大切。野菜を切るとか、魚をおろすとかの基礎ができていなのに、応用に進んでも中途半端になる。
心構えや姿勢など、精神面でも同じ。あいさつには特に厳しい。あいさつはよき人間関係を築くためにも、仕事を円滑にすすめるためにも、基本中の基本。同じ理由で身だしなみや掃除も重要視している。
「料理は心だ。夢無限大」彼らのモットーである。その通り、テレビで見る彼らはきびきびしており、「いらっしゃいませ」のあいさつも機械的なものでなく、心がこもっていて実にすがすがしい。
この日のメニューは「花御膳」。10品以上もついて1.200円。料亭では4.000円以上もするぐらいの料理だとか。色合いに切り口も工夫されプロ顔負けの花御膳、行列ができるのもうなずける。
調理科生徒を指導するのは村林新吾先生。村林先生は相可高校に調理科できた時、有名な調理師専門学校から招聘された。だから食物調理科の歴史は村林先生の築いた歴史でもある。それから12年の熱血指導。村林先生が創設した調理クラブは今や「調理甲子園」の常勝校になり、「調理クラブと言えば相可高校」とまで言われるようになった。
村林先生の好きな言葉は西川きよしさんがよく使う「小さいことからこつこつと」。人生は失敗の積み重ね、高校生にとってはなおさらである。手を抜いたり、これでいいかと中途半端な気持ちで生徒に接すると、生徒はひねくれた考えを持つようになると言う。
だから教育は真剣勝負。竹刀ではなく真剣をもっているくらいの覚悟で料理の指導に当たる。自分にも厳しく、生徒にも厳しいまるで昔の頑固おやじを思わせる。何か今の日本人が忘れたものを思い出させる。
生徒は調理を通じて、社会に出ても即通用する「技術」と「知識」と「人間力」を身につけ、「忍耐力」を学び、自分独自の「発想」に目覚める、ここに、相可高校の調理科生徒就職率100%のヒミツがあるようだ。
これはもはや「調理道」といってもいいのではないだろうか。
参考資料 平成21年8月9日付 伊勢新聞