甲子園でのルール問題を考える
今夏の高校野球選手権大会は群馬県の前橋育英高校が初出場・初優勝を遂げて熱戦は終わった。しかし、今年の大会は、審判の判定に首をかしげるシーンが多く見られた。
高校野球の審判団は、プロ野球のようにそれを生業としている方々の集まりでなく、高校野球に魅せられて審判を志願し、講習会やレフリーミーテイングを重ね、高校野球連盟から審判としての資格を与えられた人々の集まりである。甲子園には、経験豊かな方々が集められ、甲子園で審判を務めることは審判員にとってこのうえない名誉となる。職業は教員などの公務員・僧侶・JR職員などさまざま。これらの人は比較的休暇時間がとりやすいためでもある。
報酬は旅費と日当だけ。持ち出しも多く、競技が好きでないとやっておれない。そんな審判員の方々には敬意を表したい。
しかし、高校野球のルールには謎が多すぎる。その一つに監督に抗議する権利が認められていないこと。それに審判団や審判員が権威をふりかざしているように見えるのは私だけだろうか。
今大会を通じて感じたことは、主審のストライクゾーンの広さである。どう見てもボールと思われる高めのボールをストライクと判定する主審がかなり多かった。コースもアウトコースボール1個分ぐらい広く選手の皆さんもかなり戸惑いがあったようだ。その証拠に今年の大会は三振奪取率がかなり高かった。
花巻東の千葉翔太選手の「カット打法」についても明らかにおかしい。かって夏の甲子園大会で東洋大学姫路高校の9番バッターが、同じような打法をしたことがある。その時は、1回戦の第一打席でファールを2度打ったところ審判から注意を受けた。この打者は左手と右手の間をあけており、明らかにファールだけを打とうとした。その時の球審は「いくら特殊技術といっても、打つ意思が見られない。これは打つという打者の本分から外れているから注意した」とコメントした。
しかし、千葉翔太選手は構える時は、両手は離れているが、打つ時瞬間には、しっかりくっついていた。165センチの体を更に小さく屈め、ファ−ルで粘るプレースタイルは、彼が生き残るため努力して会得したものだ。
バットに当てようとしても、なかなか当てられるものではないのに、これはすごい技術だと私は思う。
この判断の根拠は、高校野球特別規則17項。「打者が意識的にファウルするような、いわゆるカット打法は、そのときの動作により、審判員がバントと判断する場合もある」に基づくものだが、高校野球だけのルールで、プロでは問題にならない。
千葉選手はそれまで“カット打法”で「打率7割」と大活躍し、特に準々決勝の鳴門戦では相手投手が投げた163球のうち41球を1人で稼いだ。
1・2回戦は特に注意されるわけでもなく、準決勝の前になって指摘するのはおかしい。せめて甲子園での初打席か初戦が終わった時点、もしくは岩手県での予選の段階で指摘すべきだった。
千葉選手は準々決勝戦でセカンドランナーとなって打者にサインや球種を伝えている疑いがあるとしてとして、審判からすぐに注意を受けている。この違いは何なのか。
縁の下の力持ちである審判団。しかし、高校野球は一発勝負のトーナメント。それだけに魂と魂ぶつかりあい火花が散らされる。人間がやっているからミスはいたしかたないではなく、審判団へルールの周知徹底と体質改善をはかり、一球一球に心血注いで、選手のプレーを見ていただきたい。