おもてなしの心
元気だけが取り柄の私だが、授業を終えたある日、授業記録を書こうとしたら文字が右に流れて思うように書けない。これはおかしいと思い、翌日脳外科で診てもらうと脳梗塞だと言われた。MRIを見ると脳の左側の血管に血の塊が見られ、即日入院と決まった。
幸い血の塊は、毛細血管にあったので重篤な症状ではなかった。点滴と投薬を2日ぐらい続けると文字も書けるようになり回復の兆しは見られた。しかし、安心するも束の間。脳梗塞を起因とした偽痛風により、足の関節に激痛が走り、歩くのもままならない。それも痛みが左の足の関節から右足の親指のつけ根と足首に移り、痛みはなかなかひかない。
脳梗塞で入院したにもかかわらず、同じ病院の整形外科に通わなければならない始末、ほんと大変だった。2週間で退院できたものの、痛みはまだ完全にひかない状態だが少し和らいできた。
この入院生活で楽しかったのは看護師や理学療法士、作業療法士の方々との触れ合いだった。病室には多くの看護師さんが血圧を測ったり、お通じの具合を聞きに来たりするのだが、その時いろいろな話が出てくる。自分の主人の趣味、子どもの成績、看護師の仕事のことなど。私の一番のお気に入りは年配の看護師さん。 「細井さん。おはよう。よく眠れた?」朝一番その声を聞くとなんだか元気が出そうな気がした。これぞ「ホスピタリテイ」。心からのおもてなし。おもてなしに心が加わると、「ホスピタリテイ」になる。深い心地よさが加わることで信頼・安心感そして感動が生まれる。
入院前、ゴルフ場でのレストランの昼食。私は農家生まれなので、出されたものは、すべてきれいに平らげる。小さい頃かそうしつけられていた。すると30代であろうか、ウエイトレスが笑いながら「きれいに食べていただいてありがとうございます」何とも心地よかった。
また、自宅近くの喫茶店。ここは1ヶ月に一度くらいしかモーニングを食べに行かないのだが、ドアを開けると、心のこもった声で元気よく「おはようございます」これまたなんとも心地よいウエイトレスの声ではないか。
ある日、テーブルの上の箸を床に落としてしまった。私がそれを拾おうと椅子を下げた時、椅子を下げる音を聞くやすぐ、新しい箸を持ったウエイトレスが現れて「どうぞ」。私は落ちた箸を拾い上げ、それをナプキンで拭いて使おうとしたのだが、それよりもはやく、ウエイトレスは新しい箸を持ってきた。
こんなさりげない心遣いやサービスがどんなに人の心を和ませることか。同じサービス業に携わっている私たちにとって心や気持ちを込めたサービスで心地よい空間づくりをしたいものだと思う。