混沌とした時代に一条の光がさす
17歳11か月で初タイトルを獲得した藤井聡太七段は、これまで屋敷九段が保持していた18歳6か月という初タイトル獲得最年少記録をおよそ30年ぶりに更新した。
若き棋聖の誕生で新時代の幕開けを思わせる。
コロナ禍のもと、暗い話題ばかりが多い中で唯一の明るい話題だ。
加藤一二三九段は、「藤井聡太新棋聖にはその天賦の才を余すところなく発揮し天高く翔ける龍となり、将棋史に於いて今後だれもまだ見ぬ地平を、ときに孤独と闘いながらも勇猛果敢に切り開いていただき、いつまでも色褪せない名局を紡ぎながら、将棋という芸術文化の大輪の花を咲かせていただきたいと願います」とその偉業を讃えた。
一方で、対戦相手の渡辺明二冠の謙虚で潔い感想にはタイトル保持者としての人格を感じられずにはいられなかった。中盤までは渡辺棋聖が押していたし、時間も1時間差があったから今日は藤井七段は負けかなと思った。それでも棋聖に勝った。
将棋に向き合う真摯な姿勢と探究心、向上心全てにおいてスゴイとしか言いようがない。近頃まれにみる若者だ。
もう藤井君とは呼べない。
「すごい人が出てきた」「まだ天井が見えない」渡辺二冠の言葉に藤井さんの空恐ろしさを感じる。
インタビューに答える柔和な表情と比べ、いざ将棋盤に向かうと、全く違う勝負師の顔が見える。このギャップがたまらなくいい。
彼はこれまで順風満帆な人生を歩んできたわけではない。小2の全国大会決勝、大観衆の前で屈辱の敗北を味わった。その敗北を糧に彼は成長した。
「自分の強みを生かすというより、常に自分に足りないことは何なのかを知り、それをどう高めていくかを重要視しています。将棋の場合、コーチのような人はいないので、どうやったら強くなれるか、自分で考えて試行錯誤しています。将棋は勝つか負けるかなので負けが続くことも当然あります。まずは、負けが偶然なのか、自分のパフォーマンスに原因があるのか考えます。次に、対局へのモチベーションを下げず一定に保つことを考えます」
ぜひ棋士人生の集大成を見せてもらいたいものである。