99%の負け予想からの大逆転勝利
藤井聡太7冠は、永瀬拓矢王座に挑戦し、シリーズ対戦成績を2勝1敗とし第4局を迎えた。この勝負終盤の大逆転劇で勝利し、王座を奪取し全8冠制覇を成し遂げた。
対戦相手の永瀬拓矢王座九段は、藤井7冠の唯一の練習パートナーで、月に3回ほど盤を挟んでいるという。また若手強豪らとほとんど休みなく研究会をこなし、対局前も練習将棋を指す努力の塊の人だ。
藤井対策を十分練り上げ防衛戦に臨み、その巧妙な指し回しに藤井7冠は苦しんだ。それでも、ずばぬけた読みで初めて見る局面にも対応し、最後のタイトルを奪取した。
AIは一時永瀬99%勝利と予測したが、永瀬王座の次の一手で藤井7冠が99%勝利と逆転予想し、結果はその通りとなった。
これは一手60秒以内という切羽詰まった状況にあったにせよ、永瀬元王座の「あの一手が」という無念の声が聞こえそうであった。
勝負は下駄をはくまでわからないとはこのことか。
彼はAIの申し子と言われている。AIで効率よく勉強したことにより、悪い手をほとんど指さない。以前のように数々の経験を積み、駆け引きや相手の弱みを突くような戦い方では勝てなくなった。棋風は旧来の特別な作戦駆け引きよりも、速くベストな差し手を探すといういたってシンプルだ。彼のこの強さは詰将棋で培われた指すべき手を速く正確に見つける突出した読みの力にある。
それにしても永瀬拓矢元王座の将棋に向かう姿勢に心打たれるものがあった。年が一回りも離れている藤井さん自ら志願して互いの力を磨きあっているという。
「負けました」悔しさがにじみ出た一言が印象的だった。私は藤井聡太8冠の座を奪う一番手が永瀬拓矢元王座だと思う。負けてあっぱれとは彼のことだ。
五冠を達成した時、藤井さんは、棋士としての現在地を富士登山に例えて
「森林限界の手前というか、まだまだ上の方には行けていない」と表現した。
森林が途絶える五合目辺りとした自己評価は、今も変わらない。
升田幸三元名人は藤井さんのことを「たどり来て、いまだ山麓」といった。
天賦の才を持ち、偉大な先人の謙虚な精神も受け継ぐ若き王者は、この先どこまで高く登っていくのだろうか。